よくある目の病気
第85回は動眼神経麻痺・滑車神経麻痺・外転神経麻痺(どうがんしんけいまひ・かっしゃしんけいまひ・がいてんしんけいまひ)です。
動眼神経、滑車神経、外転神経とは、12対ある脳神経の内の3つです。
人の神経系は、中枢神経系と末梢神経系の2つに分けることができます。
中枢神経系は、脳と脊髄からなります。
末梢神経系は、さらに2つに分けることができます。脳から出る12対の脳神経と脊髄から出る31対の脊髄神経です。
※視能学より抜粋
(脳神経は、Ⅰ~Ⅻの番号で表記します。動眼神経はⅢ、滑車神経はⅣ、外転神経はⅥです。)
脳神経12対の内、目に関係する脳神経は実に6対もあり、今までのブログで既にいくつか紹介しています。
兎眼(第6回参照)・・・顔面神経(第Ⅶ脳神経)
眼瞼ヘルペス(第13回参照)や角膜ヘルペス(第53回参照)・・・三叉神経(第Ⅴ脳神経)
特発性視神経炎(第84回参照)・・・視神経(第Ⅱ脳神経)
今回のブログで目に関する脳神経は全て紹介したことになります。
動眼神経、滑車神経、外転神経は、眼球を自由自在に動かす為の筋肉、外眼筋(がいがんきん)6本とまぶたを上げる筋肉、瞳の大きさやピント合わせに関係している筋肉である内眼筋(ないがんきん)に信号を伝えています。
6本の外眼筋にはそれぞれ作用方向があり、この6本の筋肉を絶妙にコントロールすることによって、私たちは見たい物に視線を合わせています。
※視能学より抜粋
内直筋 内転(ないてん):眼球を内に向ける
外直筋 外転(がいてん):眼球を外に向ける
上直筋 上転(じょうてん):眼球を上に向ける
内転:眼球を内に向ける
内方回旋(ないほうかいせん):眼球を内に回す
下直筋 下転(かてん):眼球を下に向ける
内転 :眼球を内に向ける
外方回旋(がいほうかいせん):眼球を外に回す
上斜筋 下転 :眼球を下に向ける
内方回旋 :眼球を内に回す
外転 :眼球をわずかに外に向ける
下斜筋 上転 :眼球を上に向ける
外方回旋 :眼球を外に回す
外転 :眼球をわずかに外に向ける
動眼神経は、内直筋、上直筋、下直筋、下斜筋に信号を伝えています。
滑車神経は上斜筋に、外転神経は外直筋にそれぞれ信号を伝えています。
動眼神経は、さらにまぶたを引き上げる筋肉である上眼瞼挙筋(じょうがんけんきょきん)、瞳の大きさを絞る筋肉の瞳孔括約筋(どうこうかつやくきん)、ピント合わせに関係している筋肉の毛様体筋(もうようたいきん)の2つの内眼筋にも信号を伝えています。
※現代の眼科学より抜粋
※視能学より抜粋
【症例】
動眼神経麻痺(右眼)
※視能学より抜粋
動眼神経麻痺(右眼)
※視能矯正学より抜粋
滑車神経麻痺(左眼)
※視能学より抜粋
外転神経麻痺(左眼)
※視能学より抜粋
【症状】
主な症状は、眼位の異常(斜視)、複視(両眼性複視)、眼瞼下垂、瞳孔散大、眩暈(めまい)等があります。
動眼神経麻痺、滑車神経麻痺、外転神経麻痺が起こると、その麻痺した神経が支配している筋肉が動かせない為に麻痺性の斜視になります。麻痺性斜視になってしまうと、麻痺が起こっていない目は真っ直ぐ見ることが出来ますが、麻痺が起こっている目は目を動かす筋肉が正常に動きません。そのため両目で真っ直ぐみることが出来ません。
よって、視線が揃わずに左右で別々の物を見ることになり、見ている世界が2つになってしまいます。
これを複視といいます。麻痺を生じている側の目をつぶると複視は消失し、開けると複視が出現するという、両眼性の複視となります。一般的には、麻痺した筋の作用方向を向くことで、複視の程度が増強します。複視の出かたには、水平にずれる、上下にずれる、回旋してずれるなど、いろいろなパターンがあります。
麻痺が起こっている目は、全ての外眼筋が麻痺しているわけではなく正常に動く筋肉もあります。顔を回したり、傾けたり、あごを引いたり上げたりすることで、麻痺筋を使わず(正常に動く外眼筋を使い)視線を揃えることが可能な場合があります。このように頭の位置の異常を頭位異常(とうい いじょう)といいます。
複視や眩暈の症状は片目をつぶると消える為、麻痺性斜視で来院される方の中には、片目をつぶっている方や頭位異常がみられる方もいらっしゃいます。
動眼神経麻痺では、上眼瞼挙筋に麻痺が起こる場合もあります。上眼瞼挙筋は、まぶたをあけるための筋肉なので麻痺が起これば眼瞼下垂が起こります。
また、動眼神経は瞳孔の大きさを調節する瞳孔括約筋を支配しており、動眼神経麻痺の患者さんでは、瞳孔が広がってしまう(瞳孔散大)こともあります。
【原因】
脳内病変
脳腫瘍、脳動脈瘤、脳出血、脳炎
血管性病変
高血圧症、動脈硬化症、糖尿病
外傷
頭部外傷、眼窩外傷
耳鼻科疾患
副鼻腔炎、中耳炎
その他
眼窩腫瘍
原因として上記等が挙げられます。
眼科の領域では命の危機に直結する原因は少ないとされています。しかし、動眼神経麻痺において黒目が大きく広がる散瞳(さんどう)という所見が診られる場合は注意が必要で、原因が脳動脈瘤によって引き起こされている可能性があります。大きな脳動脈瘤は、破裂してクモ膜下出血を起こすと命に関わることもありますので、出来るだけ早急にMRIなどの画像検査を受けてももらうこととなります。
【治療】
原因となる疾患が明らかな場合、まずはそれに対する治療を行います。
脳外科、内科、神経内科、耳鼻科などと連携を取りながら治療を進めていく事が多いです。
麻痺性斜視には先天性(生まれつき)と後天性の大きく2つに分けられます。
後天性の麻痺性斜視の場合は、発症後3~6ヶ月は自然治癒の可能性があります。よって発症後すぐは、原因治療を行ったり、補助的な目的でビタミン剤や血管拡張薬などの内服薬を投与したりして、斜視や眼瞼下垂の状態を経過観察することが多いです。
複視の訴えが強い場合は、麻痺を起こしている方の眼(患眼)を遮閉することもあります。
斜視の程度が軽度な場合は、プリズムを用いた特殊な眼鏡を処方することがあります。プリズムには眼鏡に組み込むタイプと貼り付けるタイプがあり、それぞれ一長一短があります。
経過観察中に麻痺筋以外の筋肉の拘縮(こうしゅく; 筋肉が動かなくなること)を予防するためにボツリヌス注射を行う場合もあります。
治療を行っても麻痺性斜視の症状や眼瞼下垂が残存し、なおかつ症状が固定してしまうと手術の適応となります。
(監修 京橋クリニック院長 佐々原学)