よくある目の病気
第93回目は、近視(きんし)です。
前回は遠視について説明しました。近視も遠視もともに屈折異常に分類されますが、遠視の状態では焦点が網膜から後方にあるのに対して、近視の状態では焦点が網膜から前方に位置しています(下図)。
参天HPより引用
前回も説明しましたが、屈折状態を決めているファクターは3つあります。それは角膜、水晶体、そして眼軸長です。それぞれの詳細については前回の遠視の説明を参照してください。
角膜のカーブ(角膜曲率)がきつくなると近視が強くなります。角膜のカーブは個人差がきわめて大きく、身長や指の長さなどと同じように、生まれつきの個性と思っておくと良いでしょう。
次に水晶体ですが、水晶体に起因する近視には2つあります。
水晶体性近視と調節性近視の2つです。
水晶体性近視とは第64回で説明しましたが、水晶体が加齢により硬くなり、屈折力が上がることによって近視が強くなるという現象です。一般に中年以降で起こります。
調節性近視とは、前回説明した水晶体の調節という現象が長時間にわたり持続し、水晶体が膨らんだまま元に戻らず、膨らんでいる状態の間、近視が一時的に強くなる状態を言います。これは小児でよく見られる近視ですが、大人で生じる人もいます。
最後に眼軸長ですが、眼軸長は一般に幼児から小児期に延長し、眼軸が伸びたぶんだけ焦点が網膜より前方に移動するため、より強い近視になります(軸性近視)。眼軸長は一旦延長してしまうと元に戻ることはないので、不可逆的な近視の進行となります。ここが先ほどの一時的な近視の増強である調節性近視と大きく異なる点です。軸性近視は遺伝要因と環境要因の相互作用によって決まると言われています。
これらの3つのファクターの全ての合計が実際の個々人の近視の強さを決めています。
眼科においては、遠視や近視の強さをジオプトリー(D、ジオプターとも言う)という単位を用いて表します。この数字が大きいほど、遠視や近視の度合いが強くなります。遠視はプラス、近視はマイナスで表記します。
① 軽度近視 -3D以下
② 中等度近視 -3D ~ -6D
③ 強度近視 -6D以上
人類の最強度近視は約-20Dです。
【問題点】
裸眼視力低下(遠方視力の低下が主となります)
強度近視、特に長眼軸による強度近視の方は、さまざまな目の疾患にかかりやすくなります。
網膜裂孔、網膜剥離、緑内障、強度近視性の網脈絡膜萎縮などです。
【治療】
基本的には眼鏡、およびコンタクトレンズなどを用いて、屈折異常を矯正することで視力を確保できます。
レーシックなどの角膜手術を行うことで、屈折矯正を行うことも可能ですが、第61回レーシック眼で説明したように問題点もあります。
水晶体硬化を防ぐ有効な方法は現在のところ見つかっておりません。
中年になって短期間にどんどん近視が強くなる場合は水晶体性近視を疑いましょう。
眼鏡やコンタクトレンズの度数を短期間に何回も修正する必要が出てきますが、視力が確保されている間はこの方法で対応できます。眼鏡やコンタクトレンズを使用しても充分な視力が得られない場合は、白内障などを生じている可能性もあります。眼科医によく説明してもらいましょう。
調節性近視のひどい方の場合は、調節麻痺剤などの点眼薬を処方する場合もあります。
眼科医の指示通りに受診することが肝要です。
小児の軸性近視に関しては、一旦眼軸長が延長してしまうと元に戻すことは困難なため、眼軸の延長防止を目的とした治療を行います。近くを見過ぎない、屋外でよく遊ぶなどの生活習慣も重要です。薬物的な手段としては当院でも行っている低濃度アトロピン点眼治療が有力視されています。その他にもオルソケラトロジーを施行すると眼軸長が延長しにくいという報告も多くされています。
(監修 京橋クリニック院長 佐々原学)