よくある目の病気
第92回は 遠視 (えんし) です。
遠視とは屈折異常のひとつです。
※参天製薬ホームページより引用
屈折異常とは、上の図に示すように無限遠からの平行光線が網膜上に焦点を結ばない状態のことを言います。屈折異常には、遠視、近視、乱視などがあります。反対に屈折異常のない状態を正視と呼びます。屈折異常のある眼では網膜に焦点が合っていないため、ボケた像が映り視力が落ちます。屈折異常を何らかの方法(眼鏡、コンタクトレンズ、手術など)によって矯正し、適正な視力を得ることを屈折矯正と呼びます。
遠視の状態とは、上の図に示すように、焦点が網膜を突き抜けて網膜後方にある状態です。
反対に近視の状態では、焦点が網膜より前方にあります。
※参天製薬ホームページより引用
屈折に関与する眼球の3要素は、角膜、水晶体、そして眼軸長の3つです。
角膜と水晶体は眼に入る光を折り曲げる力(屈折力)を持ちます。
屈折力のうち、約3分の2は角膜、残りの約3分の1は水晶体が担当しています。
角膜の屈折力は主に角膜のカーブの大きさ(角膜曲率)で決まっており、任意に変化させることができません。
角膜のカーブが急峻な人は、角膜屈折力が大きくなり(近視よりになる)、
反対に角膜のカーブがゆるやかな人は、角膜屈折力が小さくなります(遠視よりになる)。
角膜のカーブは個人差が大きく、身長や指の長さなどと同じようにその人固有のものと考えておくと良いでしょう。
水晶体は弾性がある非常に特殊な組織で、厚みを膨らませたり、逆に薄くしたりすることが可能で、屈折力を変化させることができます。水晶体の持つこの能力のことを調節と呼びます。水晶体には調節力があるため、網膜へ焦点を合わせる微調整を行うことが可能になります。
水晶体の厚みが厚くなると、その分屈折力が大きくなります(近視よりになる)。
反対に水晶体の厚みが薄くなると、その分屈折力が小さくなります(遠視よりになる)。
調節は水晶体の辺縁にある毛様体という組織によってコントロールされます。毛様体には毛様体筋があり、ここの筋肉が収縮すると毛様体と水晶体をつないでいる毛様小帯(チン小帯)のテンションがゆるみ、水晶体が弾性によって厚くなります。反対に毛様体筋が弛緩すると、毛様小帯に再びテンションが形成され、水晶体が引っぱられて薄くなります。このコントロールは自律神経によって制御されており、遠くを見たり近くを見たりする際に起こる網膜への焦点ズレを、この筋肉をコントロールすることによって補正しているわけです。
※参天製薬ホームページより引用
眼軸長は角膜頂点から網膜の中心窩までの距離を現し、これも個人差が大きいパラメーターであります。眼軸長が長い人は、焦点が網膜の手前になり近視よりになります。反対に眼軸長が短い人では、焦点が網膜より後方になり遠視よりになります。眼軸長は主に学童期に伸びて長くなりますが、どこまで延長するかに関しては個人差が大きいです。一度延長してしまった眼軸長は元に戻すことはできません。
これら3つの要素(角膜、水晶体、眼軸長)によって、その人それぞれの屈折状態(遠視、近視とその強さ)が決まります。
【問題点】
それでは次に遠視の問題点について、挙げていきましょう。
① 小児の遠視
子供の遠視は、さまざまな病気と関連することがあります。
3歳児健診や、就学時前健診などで、屈折値や視力を測定し、早めに対処することが大切です。
遠視性弱視・・・遠視が強いと網膜に焦点が合わせられず、ボケた像が映るため、視力の獲得が正常に行われない場合があります。この場合、成長しても充分な視力が得られないということになります。これを弱視と呼びます。
調節性内斜視・・・遠視が強いと網膜に焦点が合わないため、映像をはっきりさせるために普段から調節が働いています。この力が過剰に働くと眼球が内寄りになってしまい、内斜視を引き起こします。1歳6か月から3歳までの間に最も発症が多いです。
立体視の獲得不全・・・両眼でものを見て立体的に把握する能力が、強い遠視があることによって獲得できない場合があります。
② 大人の遠視
軽い遠視の人は、小児時に視力を正常に獲得でき、また普段裸眼で遠方視力がよく出る人が多いため、眼鏡やコンタクトレンズが不要で生活されている方も多いです。
ところが、遠視は元来網膜に焦点が合っていない状態であるため、下記のような問題を起こすことがあります。
眼精疲労・・・遠視の人は遠くを見る際にも毛様体筋を緊張させ、調節を行って網膜に焦点を合わせています。これだけで他の人より疲れやすい目になっていますが、さらに近見作業を行いますと、さらに調節力を使わないとものがはっきり見えないということになります。よって遠視の方がパソコンや読書、裁縫など近見作業を行うと眼精疲労が起きやすくなります。
急性緑内障・・・遠視の方は眼軸長が短く、前房が浅く、隅角が狭い人が多いです。このため高齢者では、急性緑内障発作を起こすこともありますので、注意が必要です。
【治療】
小児の場合、遠視性弱視や調節性内斜視の治療手段はまず眼鏡の装用となります。
遠視の状態を眼鏡をかけることにより矯正し、シャープな映像を脳に送り、視力や立体視などの視機能を発達させることができます。また眼鏡をかけることにより調節が不要になりますので、内斜視を引き起こす力を減少させることができます。
小さなお子さんの場合、眼鏡を嫌がることも少なくありませんので、ご家族の協力が欠かせません。
大人の眼精疲労に対しても、眼鏡あるいはコンタクトレンズによる屈折矯正は有効な治療法となります。見るものの距離によって眼鏡の度数が変わります。しっかり検査をして度数を決めたほうが良いでしょう。パソコン作業などの手元の作業を長時間行いますと疲れやすいため、1時間画面をみたら10分休憩するなどして目を休ませることも重要です。
(監修 京橋クリニック院長 佐々原学)