よくある目の病気
第89回 偽落屑症候群 (ぎらくせつ しょうこうぐん)
前回までの緑内障のお話の続きで、今回は偽落屑症候群です。
高頻度で緑内障を併発し、状態は原発開放隅角緑内障(第86回参照)と類似します。
まずそもそも「落屑」とは何でしょうか。
落屑とは水晶体の最も外側にある水晶体嚢(すいしょうたい のう)が、主に強い熱などにさらされたときに剥がれ落ちることで、水晶体嚢の前面がシート状に分離したものを指します。ガラス吹き工などの人に生じることがあります。偽落屑に対し真性落屑とも呼びます。
「偽落屑」とは、落屑に似ているが本体が不明の物質です。主に水晶体前面、瞳孔領、隅角、毛様体突起、チン小帯などに付着する白色のフケ状物質のことを指します。
偽落屑は眼科の検診などでよく発見されます。
偽落屑を有する人は緑内障になりやすく、またチン小帯という水晶体を支えている筋肉が脆弱なことが多いため、白内障手術時にも注意が必要となります。また、散瞳しにくいという特徴があります。
【症例】
71歳女性。
約20年前に人間ドックにて緑内障の疑いを指摘されたが、視野検査にて異常はなかった。
今回は両眼の異物感にて当院を受診したが、左眼に偽落屑物質を発見した(上の写真)。
水晶体の前面に白いフケ状の物質が多数沈着しているのがわかる。
よく見ると瞳孔領にも付着している。
両眼の視神経乳頭には陥凹拡大の所見があり、緑内障を疑って視野検査を施行したが異常は出なかった。
現在、経過観察中である。
68歳女性。
両眼のかすみと視力低下にて当院を受診した。矯正視力は右眼0.9、左眼0.8であった。
両眼の核白内障を認めたが、右眼の水晶体前面には偽落屑物質の沈着を認めた(上の写真)。
視神経は正常で、眼圧も正常範囲内であった。
その後両眼の白内障が進行し、視力がさらに低下したため、白内障手術を施行した。
【症状】
偽落屑症候群自体は自覚症状がありません。眼科検診や他の疾患で眼科を訪れた際に発見されることが多いです。
顕微鏡で眼の中をのぞくと、白い粉や膜のような偽落屑物質が房水の中を漂っており、瞳孔縁や虹彩縁、水晶体の表面、隅角に付着し、房水の出口を塞ぐ場合があります。また、線維柱帯とその周辺に色素沈着がみられます。偽落屑物質が房水の出口を塞ぐと循環が悪くなり、眼内に房水が溜まり眼圧が上昇します。
眼圧が上昇した状態が続くと視神経に物理的な負荷が加わりいたみ緑内障を発症します。視野が消失し進行すると視力も低下しますが、緑内障は著しく進行しないと自覚はほぼありません。
※参天製薬HPより引用
【原因】
一種の体質と考えられています。高齢者に多く見られます。
偽落屑症候群は一部の遺伝子が関与していると言われておりますが、偽落屑物質の正体に関してもはっきりとした事はわかっていません。
【治療】
偽落屑症候群自体は一種の体質なので治すことはできません。
緑内障の治療は原発開放隅角緑内障と類似しており、病気の進行を抑える治療を行います。まず薬物治療を行い、それでも病気が進行する場合はレーザー治療、手術治療を施行することになります。前回、前々回にお話したように、緑内障が進行した結果失われた視野や視力は元に戻すことはできません。
偽落屑症候群は、白内障にもなりやすいと言われています。水晶体をまわりから支えているチン小帯という線維が脆弱なことが多く、チン小帯の断裂が生じると水晶体脱臼といって、水晶体全体が傾いたり、眼内に落ちるなど、白内障の手術の際に合併症が起こりやすいので注意が必要です。散瞳もしにくいことが多いため、難度の高い手術になる場合があります。
(監修 京橋クリニック院長 佐々原学)