よくある目の病気
第86回は原発開放隅角緑内障 (げんぱつ かいほうぐうかく りょくないしょう) です。
※参天製薬HPより引用
緑内障とは何らかの原因で眼球と脳の間の情報の橋渡しをしている視神経が障害され、視野(見える範囲)や視力に異常が起きる病気です。
進行性の病気で、現在の日本の失明原因では第1位になっており、40歳以上の緑内障有病率は約5%であると言われています(約20人に1人)。
緑内障の分類の仕方にはいろいろありますが、「隅角(ぐうかく)」の広さ・状態によって、「開放隅角」の緑内障と「閉塞隅角」の緑内障に分けることができます。
隅角とは、房水の通り道の出口であり、房水は毛様体で生産されます。そして水晶体の前面を通り抜けて、瞳孔から前房へと進み出て、隅角へ進み、シュレム管を抜けて静脈へ到達するという「房水循環」が行われています(下図参照)。房水循環が障害されると、房水が溜まってきて眼圧が上昇します。
※参天製薬HPより引用
隅角が開いていて、かつ緑内障である場合が「開放隅角緑内障」です。
隅角が閉塞していて、かつ緑内障である場合は「閉塞隅角緑内障」となります(下図参照)。
※「目でみる眼疾患」より引用
「原発」とは、医学用語で原因が不明、一次性という意味です。
よって原発開放隅角緑内障とは、「隅角は開放しているが、原因が不明の緑内障」ということになります。これは緑内障の中で最も多いパターンとなります。
原発開放隅角緑内障は眼圧が上昇する場合(上の左図で示すように線維柱帯からシュレム管の抵抗が高い場合)と、眼圧が正常であるにもかかわらず緑内障が進む場合(=正常眼圧緑内障)の2つに分けられます。
【症例】
62歳女性。
商店街などの人ごみの中に入ると、よく人にぶつかる。
見えていないのかもしれないと思い、来院した。
矯正視力は両眼ともに1.2。
眼圧は両眼ともに18mmHgであった。
眼底検査をしたところ、両眼ともに著明な視神経乳頭の陥凹拡大を認めた(下図)。
視野検査を施行したところ、両眼ともに広範囲に視野が欠損していた(下図)。
隅角は開放隅角で、その他の疾患は認めなかった。
原発開放隅角緑内障の診断にて、現在、点眼治療を継続している。
【症状】
視野が徐々に欠けて、狭くなっていきます(視野欠損)。
しかしながら自覚症状は病気がかなり進行するまで現れません。
初期→中期→後期→末期というように進行しますが、初期のうちはほとんど自覚症状が出ません。
中期になっても、自覚症状が出ない人がたくさんいます。
後期以降になると自覚症状が出る人がほとんどになりますが、緑内障で失われた視野は取り戻すことはできないため、手遅れとなる場合が出てきます。
末期になると、視力も低下し完全失明へと進んでいきます。
よって、健康診断などで眼底写真を撮影したり、眼科で眼圧検査や眼底検査をしてもらったりして、できるだけ早い段階で緑内障を発見することが非常に大切です。
※「目でみる眼疾患」より引用
【原因】
原発開放隅角緑内障はその名の通り原因が不明です。
眼圧が上昇するパターンでは、上昇した眼圧によって視神経に物理的な負荷がかかり、結果的に視神経が障害されてしまうと考えられています。
眼圧が正常なパターン(=正常眼圧緑内障)では、①眼圧は日内変動しており、検査した以外の時間帯で眼圧が上昇している ②眼圧が正常範囲に入っていると言っても、その人個人にとっては高い ③眼圧以外の因子(視神経を栄養する血流)に問題がある の3つの可能性があります。
【治療】
原発開放隅角緑内障の進行により視神経そのものが障害されます。緑内障が進行して失われた視野や視力は、残念ながらいかなる治療をもってしても取り戻すことはできません。現代の医学では障害された視神経を元に戻すことが不可能なためです。
よって現在行われている緑内障の治療の目的は、病気の進行を遅らせるということになります。
①薬物治療、②レーザー治療、③手術治療、の大きく3つがあり、そのどれもが病気の進行を遅らせる目的で行われます。
緑内障患者さんの多くは薬物治療でコントロールされていますが、中に進行してしまう重症の患者さんがいて、レーザー治療や手術治療を行わざるを得ない場合があります。
繰り返しになりますが、緑内障は自覚がないまま視野が欠けていきます。自分で気づいた時には手遅れという場合もあります。進行した分は元に戻せない病気です。よって、健康診断や眼科受診時での検査で指摘された場合は、詳しい検査を受け、医師の指示に従うことが重要です。早期発見・早期治療という言葉がぴったり当てはまる病気と言えるでしょう。
(監修 京橋クリニック院長 佐々原学)