よくある目の病気
第77回は 加齢黄斑変性 (かれい おうはんへんせい) のお話です。
加齢黄斑変性は、現在の我が国で急速に増えており、後天性の失明原因では第3位になっている怖い病気です。
これまでにも説明してきましたが、黄斑は視力を出すのにとても重要な部分です。黄斑が変性するわけですから、視力が出なくなってしまいます。一旦発症すると完治して元通りの見え方を回復することは大変難しく、個人によって程度の差はありますが何らかの後遺症が残ってしまいます。
日本眼科学会HPより転載
基本的には片眼性の病気ですが、人によっては両眼に発症してしまう人もいて、両眼の加齢黄斑変性になってしまうと、日常生活が大変困難な状況になります。
加齢黄斑変性は、教科書的には萎縮型と滲出型の2つに分類されていますが、萎縮型はごく少数であり、大多数は滲出型でありますので、これ以降は滲出型の加齢黄斑変性に絞って説明いたします。
前回のドルーゼンでも説明しましたが、ドルーゼンは加齢黄斑変性の前駆病変と考えられています。加齢黄斑変性を理解するためにも、網膜と網膜色素上皮、そして脈絡膜の関係を理解する必要があります。
日本眼科学会HPより転載
滲出型の加齢黄斑変性の主な病態は、脈絡膜から網膜側に向かって新しい病的な血管(脈絡膜新生血管)が生えることであります(下図参照)。脈絡膜新生血管は異常な血管であり、滲出や出血を起こします。これが長い期間持続することにより、黄斑部の正常網膜が障害され、最終的には変性してしまい、視機能が失われてしまうわけです。
アルコンファーマ社HPより転載
【症例】
68歳女性。
10日前から右眼だけで見ると物がゆがんで見える。矯正視力は0.7であった。
眼底写真を見ると、右眼の黄斑部、中心窩より耳側に黄白色の固まり(=脈絡膜新生血管)と周囲に出血を伴っていた。
光干渉断層計(OCT)画像では、網膜色素上皮より網膜側に高反射塊(=脈絡膜新生血管)を認め、中心窩下には網膜下液も認めた。
滲出型の加齢黄斑変性が疑われた。
蛍光眼底造影写真を撮ると、多数のドルーゼン、脈絡膜新生血管、周囲の出血が描出された。
滲出型の加齢黄斑変性である。
脈絡膜新生血管が中心窩外に存在したので、レーザー光凝固術を施行した。
治療直後の眼底写真である。
レーザー治療後3ヵ月の眼底写真。
脈絡膜新生血管の存在した場所は瘢痕化している。出血も消失した。矯正視力は0.9へ改善した。
治療後のOCT画像を見ると、網膜下液が吸収され消失しているのが確認できる。
【症状】
視力低下
物がゆがんで見える(変視症)
視野の中心が暗く見える、黒っぽく見える(中心暗点)
色の識別ができない(色覚異常)
【原因】
加齢黄斑変性の原因としては、加齢、喫煙、体質(遺伝的素因)の3つが挙げられます。
基本的に50歳以降に発症し、加齢による網膜色素上皮の機能低下、ブルーフ膜(網膜色素上皮と脈絡の間)の変化、脈絡膜毛細血管板の変化、黄斑部光障害の蓄積、などが原因となっているのではないかと考えられています。
喫煙は加齢黄斑変性の発症率を高めてしまう、重要なリスク因子とされています。喫煙歴が長い人、一日あたりの喫煙本数が多い人はリスクが高く、発症率が数倍になります。
体質とは、もともと持って生まれた遺伝的背景のことで、まずもって加齢黄斑変性の有病率は人種によって異なります。白人が最も多く、黄色人種はその次、黒人は少ないと言われています。
性差もあり、白人は女性に多いですが、黄色人種では男性に多いとされています。
さらに個人個人の発症しやすさに関して、染色体上の一塩基多型(SNP)が関連しているという研究が進行しています。
喫煙と体質(遺伝的背景)が組み合わさると、発症率が跳ね上がるという研究が続々となされてきています。さらに、こういったリスクファクターと重症度との関連も研究されています。
【治療】
治療は主に発症予防の治療と発症後の治療に分けられます。ここでいう発症とは脈絡膜新生血管の発症という意味になります。
発症予防は大変重要です。滲出型の加齢黄斑変性(=脈絡膜新生血管の発生)は一旦発症しますと、網膜を完全に元の状態に回復させるのが困難であり、見え方に後遺症が残ってしまうからです。
まず喫煙者は禁煙しましょう。
今まで吸ってきたから同じことだと言って禁煙しない人もいますが、発症率に関わるだけでなく、一旦発症した場合の重症度にも関係してきます。禁煙は遅くありません。思い立ったらやめましょう。
次に食事です。
ルテイン、ゼアキサンチンなどの黄斑色素を摂取することが重要です。
黄斑色素は光刺激から黄斑部を守っている大事な色素ですが、体内で合成することができないため、緑黄色野菜などを多めに摂取して体外から供給することが大切です。
黄斑色素の他には、抗酸化ビタミン(ビタミンCやビタミンE)、オメガ–3多価不飽和脂肪酸、抗酸化ミネラル(亜鉛、銅)なども有用とされています。
最後に物理的に光から目を守ることです。
長年の黄斑への光刺激が加齢黄斑変性の発症に関係しているのではないかと考えられていますので、外出時にサングラスをかけるなどがすすめられます。
次に発症後の治療ですが、難治性の病態である脈絡膜新生血管に対し、現在に至るまで実にさまざまな治療法が試みられてきました。ここでは現時点でよく行われている治療法として、「抗VEGF療法」、「光線力学的療法」、「レーザー光凝固術」を紹介します。
・抗VEGF療法
VEGF(血管内皮増殖因子)という分子に対する抗体を眼球内に注射して、病態の沈静化を図る治療です。VEGFはもともと生理的な血管の制御に大変重要な分子で、血管の伸長や血管透過性を制御していますが、病的な新生血管である脈絡膜新生血管とも強く関連しています。このVEGFの働きを抑えることで、脈絡膜新生血管の伸長を抑えたり、血管内からの漏出を抑えたりすることを狙います。
・光線力学的療法(PDT)
光に反応する特殊な薬剤(光感受性物質)を静脈から注射し、この薬剤が脈絡膜新生血管に多く集まり、正常の網膜血管や脈絡膜血管には集まりにくいという性質を利用します。光感受性物質が脈絡膜新生血管に集積した状態で、正常網膜を傷めない程度の弱いレーザーを病変部に照射し、光化学反応を起こさせ脈絡膜新生血管の閉塞を狙います。
・レーザー光凝固術
脈絡膜新生血管をレーザー光で焼き固める治療法です。正常な周囲の組織にもダメージを与えてしまいますので、脈絡膜新生血管の位置が中心窩(=黄斑の中心部)より外にある場合にのみ実施されます。
(監修 京橋クリニック院長 佐々原学)