よくある目の病気
第76回目は、ドルーゼン・網膜色素上皮萎縮です。
現在の日本で後天性の失明原因第3位は加齢黄斑変性です。
この病気に関しては次回のブログで説明いたしますが、加齢黄斑変性の前駆病変として考えられているのがドルーゼンという所見です。
日本眼科学会HPより転載
ドルーゼンを理解するためにはまず、網膜色素上皮について知る必要があります。
上の図は眼底の断面図を示していますが、眼球の一番内腔に硝子体があり、その外側に神経網膜、網膜色素上皮、脈絡膜、そして一番外側に強膜(図には描かれていない)が並んでいるという構造になっています。
網膜色素上皮は神経網膜、特に光を感じる細胞である視細胞を支える役割をもつ、大変重要な細胞です。外側から血流豊富な脈絡膜からの栄養を受け、視細胞の代謝活動を制御しています。
また、古くなった視細胞を貪食処理し、視細胞のターンオーバーにも関与しています。
すなわち網膜色素上皮に何らかの機能低下を生じたり、網膜色素上皮がダメージを受けて萎縮してしまったりすると、視細胞にも悪影響が出てしまうことになるわけです。視細胞にまで影響が及ぶと、視力低下などの臨床症状が出ることにつながります。
ドルーゼンとは、まさに網膜色素上皮の機能低下によって起こると考えられています。
加齢やその他の原因によって、網膜色素上皮内で老廃物が処理できなくなり、網膜色素上皮の外側(脈絡膜側)に老廃物が沈着してしまった状態が、ドルーゼンであると考えられています。
ドルーゼンの模式図
Gass JDM, Stereoscopic Atlas of MACULAR DESEASES, 4th edition より転載
ドルーゼンの組織写真。
Holz他. Age-related macular degeneration より転載
ドルーゼンの蓄積は、次回にお話する加齢黄斑変性の前駆病変と考えられており、臨床的にとても重要な所見と考えられています。
網膜色素上皮萎縮とは、その名の通り、網膜色素上皮がダメージを受け萎縮してしまった状態です。萎縮している場所の上にある神経網膜も徐々にダメージを受けることになります。
【症例】
75歳女性。
右眼の眼底に、境界鮮明な黄白色の沈着物(=ドルーゼン)が多数存在している。
同じ症例の自発蛍光眼底写真。
ドルーゼンの部分は白く描出されている。これは蛍光強度が強いことを示す(=過蛍光)。
同じ症例の光干渉断層計(OCT)画像。
ドルーゼンは網膜色素上皮下の沈着物として捉えられる。
【症状】
ドルーゼンの蓄積のみでは、視力低下や変視症などの症状を起こすことは少ないです。
網膜色素上皮萎縮はさまざまな疾患に合併して起こりますので、症状もさまざまですが、視力低下、視野欠損、暗点などが生じます。
【原因】
ドルーゼンは、加齢やその他の原因によって、網膜色素上皮の機能低下が生じることによって起こると考えられています。網膜色素上皮の下側(外側)に処理しきれなくなった老廃物が蓄積した状態が、いわゆるドルーゼンです。
網膜色素上皮萎縮は、網膜色素上皮がダメージを受けて萎縮した状態であり、原因はさまざまなものがあります。網膜色素上皮萎縮を生じる疾患も多岐に渡ります。
【治療】
現在のところ、ドルーゼンを消してしまうような有効な治療法はありません。
ただ、ドルーゼンの存在は網膜色素上皮の機能低下を示しており、次回に説明する加齢黄斑変性の前駆病変と考えられていることから、重篤な視力障害を生じる疾患である加齢黄斑変性を発症させないように予防を考えることが重要です。
大型のドルーゼンや多数の中型ドルーゼンが存在している人では、5年後の加齢黄斑変性の発症率が18%もある、との報告もあります。
その意味では、喫煙者は禁煙すること、ルテインやゼアキサンチンなどの黄斑色素を摂取すること、抗酸化ビタミンや抗酸化ミネラル、オメガ3多価不飽和脂肪酸などを摂取することなど、加齢黄斑変性の発症を予防することが大事です。
網膜色素上皮萎縮は現在のところ、有効な治療法はありません。萎縮した網膜色素上皮は自力で再生することはできません。研究段階として、体外で培養した網膜色素上皮を移植することが試みられています。
(監修 京橋クリニック院長 佐々原学)