よくある目の病気
第74回は、黄斑円孔 (おうはん えんこう) です。
前回のブログ(網膜上膜)の説明の中で、黄斑について説明しましたが、もう一度復習しておきましょう。
※日本眼科学会HPより転載
眼球の内部で光を感じる組織は網膜です。ヒトを含む霊長類、鳥類においては、網膜の中心部に黄斑という構造があり、ここに錐体細胞 (すいたい さいぼう) が集まっています。錐体細胞は光の刺激を神経細胞がわかる電気信号に変換する視細胞の一種ですが、ものを細かく判別したり(=分解能。視力のこと)、色を識別したりする細胞です。
黄斑円孔とは黄斑に孔(穴)があく病気です。
黄斑部の網膜全層が貫通すると、全層円孔と呼びます。重症で多くの場合視力が低下します。
孔が全ての層を貫通せず、表層だけあいた場合は、分層円孔と呼びます。視細胞が残存するため、視力低下は軽度の場合が多いです。
【症例】
59歳男性。1ヶ月前から本を読んでいるときに左眼の見え方におかしいことに気がついた。
左眼だけで見ると、ものがゆがんで見える。視野の中心が白く濁るような見え方をする。
矯正視力は0.4と低下していた。
光干渉断層計(OCT)で検査すると、黄斑円孔(全層円孔)を生じていることが判明した。
大学病院を紹介受診し、硝子体手術を受けて円孔は閉鎖した。
29歳女性。右眼はしっかり見えるが、左眼だけで見ると少し見え方がおかしい。
ゆがみはない。矯正視力は右眼が1.2出るが、左眼は0.8止まりである。
両眼ともに強度近視である。
OCT検査にて、左眼の黄斑円孔(分層円孔)であることが判明した。
分層円孔は視細胞が残っているため、全層円孔ほど見え方が悪くならない。
経過観察中である。
67歳女性。半年くらい前から、右眼の見え方がなんとなくおかしいと思っていた。
本日左眼を隠して右眼だけで見ると、視界の中心が真っ暗に見えたので急いで来院した。
両眼ともに強度近視があり、右眼の矯正視力は0.4と低下していた。
右眼の眼底には後部ぶどう腫があり、黄斑円孔が生じていた。
また黄斑円孔の周囲の網膜は剥離しており、黄斑円孔網膜剥離の状態であった。
右眼のOCT画像。全層の黄斑円孔が生じており、円孔周囲の網膜は剥離している。
黄斑円孔網膜剥離が確認された。
【症状】
線や物がゆがんで見える(変視症)
視野の中心部が暗い、見えにくい(中心暗点)
視力が低下する
【原因】
大きく分けると、原因不明の特発性黄斑円孔と、外傷性の黄斑円孔に分けられます。
頻度として多いのは特発性黄斑円孔で、50代以降の女性に多く見られます。
特発性黄斑円孔の詳細なメカニズムは不明ですが、硝子体との関連が考えられています。
本来硝子体は網膜と接着していますが、加齢により硝子体が収縮して後部硝子体剥離が起き、硝子体の後ろ側が網膜から剥がれます。このとき、何らかの原因で硝子体と黄斑部が強く接着している人の場合、黄斑部が剥がれようとする硝子体によってひっぱられて物理的な力がかかってしまいます(硝子体黄斑牽引)。
この状態がある一定期間続くと、黄斑部の網膜が変性し、孔があいてしまうのではないか、と考えられています。
外傷性黄斑円孔の原因としては、眼球打撲、レーザー光の誤照射などがあります。
【治療】
特発性黄斑円孔は一般的に自然に円孔が塞がることは稀で、手術治療を行うことが多いです。
外傷性黄斑円孔は、自然閉鎖する場合もあるのでしばらく経過をみます。円孔の自然閉鎖が期待できそうにない場合は、手術治療を行います。
この病気には、有効な点眼薬、内服薬はありません。
手術治療は硝子体手術を行います。
特発性黄斑円孔では、原因のところで述べたように硝子体が黄斑部を牽引していることが原因のことが多いですので、硝子体を切除し牽引を解除します。手術終了時に眼内に空気、もしくは膨張性のガスを注入し、手術後うつぶせ体位を取ることで、黄斑部にできた孔の閉鎖を期待します。
手術後の視力やゆがみの回復度合いは、発症年齢、円孔の大きさ、発症してからの期間などに左右されます。
(監修 京橋クリニック院長 佐々原学)