よくある目の病気
第73回は、網膜上膜 (もうまく じょうまく) です。
眼球の内部で光を感じる組織は網膜です。ヒトを含む霊長類、鳥類においては、網膜の中心部に黄斑という構造があり、ここに錐体細胞 (すいたい さいぼう) が集まっています。錐体細胞は光の刺激を神経細胞がわかる電気信号に変換する視細胞の一種ですが、ものを細かく判別したり(=分解能。視力のこと)、色を識別したりする細胞です。
※日本眼科学会HPより転載
この黄斑の上側(=硝子体側)に膜が張る病気を網膜上膜と言います。この病気には、黄斑上膜、黄斑前膜、網膜前膜などど色々な呼び方がありますが、全て同じ病気をさしています。
【症例】
71歳男性。左眼で見ると将棋盤がゆがんで見える。大きく見える。
上の画像は反対眼(右眼)の眼底像を示している。
右眼は矯正視力1・5で、眼底も正常であった。右眼は自覚症状もない。
左眼の光干渉断層計(OCT)画像。
黄斑部網膜の硝子体側に膜が形成されており(網膜上膜)、中心窩の形態が変化してくぼみが消失している。
矯正視力は0.9と低下していた。
別の症例。58歳男性。緑内障の初期で通院していた。
右眼の眼底像を示すが、この時点では中心窩陥凹(くぼみ)があり、黄斑部は正常に近い形態をしていた。矯正視力は1.5。自覚症状はない。
約1年後の眼底像。
網膜黄斑部の硝子体側に膜が形成され(網膜上膜)、中心窩陥凹が消失している。
本人は特に自覚症状はなく、矯正視力も1.5出ている。
【症状】
ごく軽度の場合、自覚症状が出ません。
膜が収縮して網膜組織の構造に皺やゆがみが生じると、変視症(ものがゆがんで見える)が生じたり、視力低下が起こったりします。
【原因】
加齢に伴う場合が多いです。加齢以外の原因としては、網膜裂孔や網膜剥離の術後、ぶどう膜炎、外傷などの後におこる場合があります。
加齢に伴う網膜上膜のでき方として、後部硝子体皮質の残存があります。
早い人では40歳頃から後部硝子体剥離といって、硝子体の後側が自然と網膜から離れていく現象がおこります。後部硝子体剥離自体は加齢でおこる生理的な現象で、病気ではなく誰にでも起こりえる事です。後部硝子体剥離が起きた時に、硝子体の一部が網膜の黄斑の上に残ってしまい、これが分厚くなり膜を形成し、網膜上膜となる場合があります。
【治療】
網膜上膜に有効な点眼薬や内服薬はありません。
軽度の場合は、視力検査、アムスラーチャートによる中心視野検査、光干渉断層計(OCT)による検査などを行い、経過観察で様子を見ます。
視力低下や変視症などの自覚症状が強い場合は、硝子体手術によって直接網膜上膜を除去します。手術後、網膜に形成されていた皺が伸びて、網膜の形態が回復されることを期待します。網膜の形態回復に伴って、視力や変視症が改善される場合が多いですが、後遺症が残る場合もあります。
(監修 京橋クリニック院長 佐々原学)