「よくある目の病気」
第70回目は網膜静脈閉塞症 (もうまくじょうみゃくへいそくしょう) です。
網膜静脈閉塞症は、網膜の静脈が血栓形成により閉塞してしまい、視力が低下したり、視野が欠けてしまったりする病気です。軽症の場合は予後が良い病気で自然回復することもありますが、重症になりますと最悪の場合失明してしまうこともある怖い病気です。
網膜の静脈がどこで詰まるかによって、さらに細かく分類することができます。
網膜中心静脈閉塞症・・・網膜の静脈が枝分かれする前、本管の部分で閉塞する
網膜静脈分枝閉塞症・・・網膜の静脈が枝分かれした後の部分で閉塞する
黄斑枝閉塞症・・・黄斑部の静脈が閉塞する
一般的に静脈の本管に近い部分で閉塞する方が、重症になりやすいです。
【症例】
59歳男性。2ヶ月前から、左眼で見ると物がゆがんで見える。
視力検査では矯正視力が0.6と低下していた。
眼底に火炎状の網膜出血を認める。
基礎疾患として高血圧があり、内科に通院している。
同じ症例の光干渉断層計(OCT)画像。
黄斑部が著明に腫れている(黄斑浮腫)。
同じ症例の蛍光眼底造影写真。
網膜の動脈と静脈の交叉部で、静脈が動脈により圧迫され、閉塞していることがわかる。
網膜静脈のうち、本管から先の枝が閉塞していることから、網膜静脈分枝閉塞症と診断される。
【症状】
視力低下
視野が欠ける
ものがゆがんで見える(変視症)
真ん中が暗く見える(中心暗点)
色がおかしく見える
【原因】
高血圧、動脈硬化、糖尿病などの基礎疾患を持っている人がほとんどです。
網膜静脈に血栓が形成され、完全に閉塞してしまうと網膜静脈閉塞症となります。
網膜静脈が閉塞してしまい、血流の循環不全が続くと、網膜出血、硬性白斑(血管内脂質の漏出)、軟性白斑(網膜の虚血)、網膜浮腫(血管内漿液成分の漏出)などが起こってきます。
網膜浮腫は黄斑部に起こると黄斑浮腫となり、視力低下、変視症(ゆがんでみえる)、中心暗点(視野の真ん中が暗い)などの症状を引き起こします。黄斑浮腫は治療するのがなかなか難しい状態です。
また、網膜の虚血が進行しますと、糖尿病網膜症のときと同じ理屈で、血管新生が起こり、硝子体出血(眼球内部に大きな出血を起こす)や網膜剥離、血管新生緑内障などを引き起こしてしまう場合があります。最悪の場合、失明してしまうこともあります。
【治療】
まず、全身の管理を行うことが重要です。
高血圧、動脈硬化、糖尿病などの基礎疾患を持つ人がほとんどですので、内科と連携して基礎疾患のコントロールを行います。
眼科的な検査としては、蛍光眼底造影検査が重要となります。
蛍光眼底造影検査を行うことで、網膜のどこの部分の静脈が閉塞したのか、しっかりと同定することが可能です。
また網膜に広範な虚血部位が見つかった場合は、糖尿病網膜症のときと同様の理屈で、病態の進行を止めるためにレーザー光凝固術を行います。
黄斑浮腫に対しては、これまでさまざまな治療が試みられてきましたが、後遺症を残さずに治療するのは困難な病態です。治療法として、格子状レーザー光凝固術、高圧酸素療法、炭酸脱水酵素阻害薬内服、ステロイド薬テノン嚢下投与、抗VEGF抗体硝子体内投与、硝子体手術などがあります。
血栓に対する直接的な治療を行う場合には、全身疾患や既往症に最大限の考慮をしつつ行うことになります。
(監修 京橋クリニック院長 佐々原学)