糖尿病網膜症 (よくある目の病気 68) | 京橋クリニック眼科は大阪市都島区、京橋駅前の眼科専門のクリニックです。

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目の病気一覧

糖尿病網膜症 (よくある目の病気 68)

「よくある目の病気」

前回まででぶどう膜の疾患を終了し、今回から網膜の疾患を御説明いたします。

第68回目は、糖尿病網膜症 (とうにょうびょう もうまくしょう) です。

 

糖尿病網膜症は、著しい視力低下や失明の危険を有する非常に怖い病気で、眼科ならびに内科的な管理がきわめて重要な疾患です。

また、現在日本人の後天的な失明原因第二位です(第一位は緑内障)。

 

糖尿病は、血液中のブトウ糖の濃度(血糖値)が上昇する病気で、体の中でインスリンが作られなくなったために起きる「1型糖尿病」、生活習慣などによってインスリンの作用不足が起きる「2型糖尿病」と2種類に分けられます。

そして糖尿病には、腎症、神経症、網膜症といった三大合併症があり、糖尿病網膜症はその内のひとつにあたります。

 

糖尿病網膜症は、①単純糖尿病網膜症 ②増殖前糖尿病網膜症 ③増殖糖尿病網膜症といった3つの病期に分類されますが、初期のうちは自覚症状が出ないため、眼科での定期健診(眼底検査)を受けることが非常に大切になります

 

 

【症例】

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77歳女性。増殖糖尿病網膜症

左眼の矯正視力は0.8である。黄斑部に点状出血硬性白斑を認める。

 

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同じ症例の黄斑部OCT画像。

正常で見られる黄斑中心の窪みが消失し、腫れている(黄斑浮腫)。

 

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57歳男性。増殖糖尿病網膜症

蛍光眼底写真で、黄斑部に多数の点状の病変を認める。これは毛細血管のこぶである(毛細血管瘤)。

 

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同じ症例の眼底写真とOCT画像。

右眼の黄斑部中央に黄白色の固まりがある。これは血管から漏れでた脂質が沈着したものである(硬性白斑)。OCT画像でも高反射の固まりとして映っている。

 

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45歳男性。増殖糖尿病網膜症

蛍光眼底造影検査にて、網膜周辺部の毛細血管が脱落しているのがわかる。これを無血管領域と呼び、虚血状態が生じている。周囲の白い霧状の固まりは、新生血管とそこからの造影剤の漏出を示している。

 

【症状】

①単純糖尿病網膜症

高血糖が持続すると、網膜の毛細血管が障害されます。

眼底に点状や斑状の出血が認められるようになります。血管から脂質が漏れて、網膜に溜まります(硬性白斑)。また網膜の毛細血管はこぶ状に変形します(網膜毛細血管瘤)。しかしこの段階では、自覚症状はほとんどありません

 

②増殖前糖尿病網膜症

毛細血管の障害が進行しますと、毛細血管の閉塞が起こり、血流が途絶えてしまいます。血流が途絶えてしまった網膜の領域は虚血(きょけつ)領域となります。虚血が生じると網膜に綿のような白い病変が現れます(軟性白斑)。

また、静脈の異常が生じたり、血管の中の成分が網膜中に漏れて、網膜が腫れる(網膜浮腫)などの変化が起こります。

しかしながら、この段階になっても自覚症状がない場合が多く糖尿病網膜症はかなり進行しているのですが、患者さんの自覚が乏しいため、自分が重症だと気がつかない場合が多いです。

 

③増殖糖尿病網膜症

網膜に広範囲の虚血領域が形成された状態をさらに放置しますと、虚血領域から血管新生因子が放出され、残存している網膜の血管から新しい病的な血管(新生血管)が発生します。

この新生血管は、非常にもろく不完全な血管であるため、破綻して大出血を起こすことがあります(硝子体出血)。こうなると突然に視力が低下します。

さらに網膜上に線維性の膜(増殖膜)が形成されるようになると、膜の収縮により網膜が引っぱられ、網膜が剥がれたり(牽引性網膜剥離)、裂けてしまったり(網膜裂孔)することが起こります。

血管新生因子が持続的に放出され、隅角に新生血管が生じるようになると、続発性の緑内障に至る場合があります。眼圧のコントロールが困難になります。

 

増殖糖尿病網膜症まで進行してしまうと、急激な視力低下が起こってしまいます増殖糖尿病網膜症の状態まで進行しますと治療を頑張っても完治させることは困難であることが多く、視力の後遺症が残ったり、さらに進行してしまうと失明してしまうこともあります。

 

 

【治療】

それぞれの病期、程度によって治療方法は異なりますが、全ての病期においてまずは血糖値をコントロールすることが最重要となります。内科の先生とよく相談し、食事制限、運動、薬物治療などを継続して行います。特にHbA1c(ヘモグロビンエーワンシ―)の数値は重要で7%以下であることが望まれます。

また高血圧のある方は、血圧のコントロールも重要です。高血糖高血圧が加わると、糖尿病網膜症が進行しやすくなります。

 

眼科では、自覚症状がなくても定期的に眼底検査を受けることが非常に大事です。

また、特殊な検査として蛍光眼底造影検査(けいこうがんていぞうえいけんさ)があります。これは糖尿病網膜症の重症度を知る上で大事な検査になります。

蛍光眼底造影検査とは蛍光色素を腕の静脈から注入し、網膜や脈絡膜の血管の血流、循環状態はもとより、網膜血管の異常網膜浮腫の状態、虚血領域新生血管などを描出することが可能で、治療方針を立てるのに大変役に立ちます。

 

蛍光眼底造影検査の結果、広範囲に虚血領域が認められた場合には、網膜光凝固術(レーザー治療)を行います。レーザー治療の目的は、網膜症の重症化を防ぎ、視機能を残すことです。

 

また、血液中の成分が網膜に漏れてしまい、網膜の中心部が腫れてしまって視力が低下している場合(黄斑浮腫)、これも放置しておきますと視力が徐々に低下してしまいます。

黄斑浮腫は治療するのがなかなか難しい状態ですが、レーザー治療を行ったり、硝子体内に薬物を注射したりして(抗VEGF治療)、視力をできる限り温存するべく努力します。

 

硝子体出血が長引いたり、牽引性網膜剥離を生じてしまったような場合には、硝子体手術を行います。また、糖尿病網膜症から続発性の緑内障を生じてしまい、眼圧コントロールが困難になってしまった場合には、緑内障手術を行います。

 

とにかく糖尿病網膜症は一旦重症化してしまうと、なかなか治療が困難な病気ですので、できるだけ早期のうちから眼科を定期的に受診することが大切です。

 

 

(監修 京橋クリニック院長 佐々原学)