「よくある目の病気」
第65回 ベーチェット病
前回までで水晶体疾患が終了し、徐々に眼球の内部の疾患を取り上げていきます。
今回から3回にわたって、ぶどう膜炎をとりあげます。
ぶどう膜というのは、眼球の内部にある虹彩、毛様体、脈絡膜の三つをまとめた呼び名です。これらはメラニン色素や血管をたくさん含んでおり、果物のぶどうのような色、形をしているのでぶどう膜と呼ばれています。
眼の他の組織に比べ血管が多いため炎症を起こしやすく、ぶどう膜の一部あるいは全て、および隣接する組織で炎症が起きることを、ぶどう膜炎といいます。
「眼でみる眼疾患」より引用
ぶどう膜炎の約3分の1~半数は原因が不明ですが、原因が分かっている中では細菌、真菌、ウイルス、寄生虫などによる感染、全身の免疫異常による疾患、強膜炎(第44回参照)、外傷、悪性腫瘍などさまざまなものが挙げられます。
「日本の三大ぶどう膜炎」として有名なぶどう膜炎として、ベーチェット病、サルコイドーシス、原田病があります。「よくある目の病気」では、これらの3つの疾患に絞って説明していきたいと思います。
今回はベーチェット病について説明します。
【症状】
突発的におこる眼発作を繰り返します。
前眼部(眼球の前の方)に生じる虹彩毛様体炎型と、それに加え、後眼部(眼球の後ろの方)に生じる網膜ぶどう膜炎型に分けられます。
虹彩毛様体炎型
充血、眼痛、まぶしさ(羞明)、かすみ(霧視)、視力低下。
前房内蓄膿(前房に膿が溜まる)や、虹彩後癒着(水晶体と虹彩がくっつく)が生じる場合もあります。
網膜ぶどう膜炎型
急激な視力低下を感じます。
虹彩毛様体炎に加え、網膜、脈絡膜に炎症がおこり、網膜出血、血管炎、滲出斑、硝子体混濁、黄斑浮腫などが生じます。
眼発作を繰り返すたびに、眼の組織がダメージを受け、次第に視力が低下します。
眼発作を繰り返すと、併発白内障や、続発緑内障、黄斑変性、網脈絡膜萎縮、視神経萎縮に至る場合があります。
【原因】
ベーチェット病とは厚生労働省の特定疾患医療に認定されている指定難病のひとつです。
眼だけでなく全身の皮膚や粘膜に発作性の炎症が繰り返し起こる慢性疾患です。
主症状として、ぶどう膜炎、口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍(口内炎)、陰部潰瘍、結節性紅斑(赤みのあるしこり)の四症状があげられます。
副症状として、関節炎、血管炎、中枢神経病変、消化器病変などがあります。
近年の発症メカニズムの研究により、生まれつきの素因(疾患感受性)を持った人に、何らかの外因(感染病原体やその他の環境要因)が加わって発症するのではないか、と考えられています。
発症年齢のピークは30歳代前半で、男女ともに20~40歳で発症する人が多いです。
【治療】
虹彩毛様体炎型
炎症を抑えるステロイド薬の点眼や、虹彩後癒着の予防として散瞳薬を用います。ステロイド薬を結膜下注射する場合もあります。
網膜ぶどう膜炎型
黄斑部に浮腫がみられる場合は、ステロイド薬を眼球の奥に注射(テノン嚢下注射)したり、ステロイドの内服薬を服用する場合があります。
眼発作再発抑制療法として、コルヒチン、シクロスポリン、シクロホスファミドといった、発作抑制剤、免疫抑制剤の内服が行われます。
近年では、2007年の1月から世界に先駆けて我が国でインフリキシマブ(抗腫瘍壊死因子TNF抗体)の点滴治療が難治性眼病変に対して保険適用となり、多くの患者さんで良い治療効果を上げています。
(監修 京橋クリニック院長 佐々原学)