「よくある目の病気」
第49回は、水疱性角膜症(すいほうせい かくまくしょう)と角膜内皮障害(かくまく ないひしょうがい)のお話です。
水疱性角膜症とは、角膜内皮細胞の極度の減少により角膜に多量の水が溜まり、浮腫(むくみ)、水疱ができる病気です。
角膜は5層に分かれており、外側表面から、角膜上皮、ボーマン膜、角膜実質、デスメ膜、角膜内皮となっています。
角膜内皮は、5層に分かれている角膜の最も内側にあります。
角膜内皮は1層の細胞からなっており、角膜から水分を排出するポンプ機能が備わっています。このポンプ機能により角膜内の水分が常に一定に保たれているため、角膜の厚みや透明性が維持されています。
この角膜内皮細胞は一度障害されると再生することはできず、元には戻りません。内皮細胞の密度がある限度を超えて少なくなると角膜にむくみ(浮腫)を発生し角膜の透明性を維持できなくなります。
上にスペキュラーマイクロスコープという器械で撮影した角膜内皮の写真を示しています。左側は正常。右側はコンタクトレンズの長時間装用によって角膜内皮が減少した症例です。
角膜内皮の平均細胞密度は正常成人で3,000~3,500個/mm2、高齢者では2,500/mm2、これが400/mm2以下になると水疱性角膜症が必発とされています。
【症例】
遺伝性の早老症患者に白内障手術を施行した後に発生した水疱性角膜症
(眼科診療プラクティスより引用)
【症状】
角膜内皮障害は浮腫をおこしていない場合には特に自覚症状はありませんが、浮腫がおこると角膜に混濁が生じ、かすんで見えるようになり、視力が低下します。角膜上皮が剥がれやすくなり激しい痛みを生じることもあります。
【原因】
眼内の手術、レーザー治療
急激な眼圧上昇(緑内障発作など)
眼の外傷
眼内の炎症(角膜内皮炎、ぶどう膜炎など)
フックス角膜内皮変性などの先天性の病気
コンタクトレンズ装用による酸素不足(第48回参照)などがあります。
【治療】
水疱性角膜症の根本的な治療は手術ですが、軽度の場合や手術でも視力予後の望めない場合などは点眼などで保存的治療をおこないます。抗炎症剤や眼圧降下剤、高張食塩水の点眼や眼軟膏、治療用コンタクトレンズの使用などで治療します。
角膜内皮障害をおこし一度減少した細胞を再生させることはできないため、根本的な治療法は角膜移植術となります。最近では角膜内皮移植なども行われるようになっています。
(監修 京橋クリニック院長 佐々原学)