シリーズ 「よくある目の病気」
第30回はアトピー性角結膜炎(アトピーせい かくけつまくえん)です。
アトピー性皮膚炎(正確に言えばアトピー素因)をお持ちの方は、目にもさまざまな合併症を起こしますが、最も代表的なものが結膜炎と角膜炎です。その他には、眼瞼皮膚炎(第12回参照)や白内障、網膜裂孔、円錐角膜なども起こしやすいですが、今回は結膜炎と角膜炎に絞ってお話します。
【症例】
24歳男性。重度のアトピー性皮膚炎あり。
左目の角膜に大きな潰瘍を生じている。
同じ症例。左眼の上眼瞼結膜(上まぶたの裏側)。
巨大乳頭(大きなブツブツ)が多数形成されている。
【症状】
結膜炎の症状として、かゆみ、めやに(眼脂)、充血、異物感(ゴロゴロする)などがあります。
角膜炎の症状として、痛み(コロコロ、チクチク、ヒリヒリ)、充血、かすみ(霧視)、流涙(涙が出る)などがあります。
重症の結膜炎の場合、まぶたの裏に巨大な乳頭(ぶつぶつ)が形成され、巨大乳頭結膜炎となる場合があります(第20回 巨大乳頭結膜炎 参照)。
巨大乳頭が角膜をこすり続けると、角膜潰瘍を形成してしまう場合もあります。この場合、難治性になる場合が多いです。
コンタクトレンズを装用されている方は、コンタクトレンズによる接触刺激、また汚れによるアレルギー反応が合わさってきます(第29回 コンタクトレンズ性結膜炎 参照)ので、結膜炎が重症化しやすいです。一般的にアトピー素因をお持ちの方で結膜炎を合併している方は、コンタクトレンズは不向きです。
【原因】
アトピー素因が原因となり、慢性の結膜炎、及び角膜炎に至るわけですが、アトピー素因がどういうメカニズムで結膜炎、角膜炎を生じるのか、その過程に関しては詳細が不明です。
アトピー性結膜炎の特徴としては、下眼瞼結膜(下まぶた)の浮腫と蒼白化(全体腫れていて白っぽい)、乳頭形成は軽度というものがあります。
アトピー性角膜炎は、主に表在性点状角膜炎の形態を取ることが多いです。
余談ですが、体には皮膚炎が出ていなくても、目の周りだけアトピー性の湿疹や皮膚炎を起こしているという方もおられます。つまり、アトピー性皮膚炎があるから目にもアトピー性の病気が出るという表現よりも、アトピー素因があるから目にもアトピー性の病気が出るという表現の方が正しい理解となります。
【治療】
アトピー性結膜炎に対しては、まず点眼薬として抗アレルギー薬、抗炎症薬を使用します。
重症例に対しては、免疫抑制薬の点眼薬を使用したり、抗アレルギー薬、抗炎症薬の内服薬を追加したりします。抗炎症薬の眼軟膏を使用する場合もあります。巨大乳頭に対しては、眼瞼結膜に対して抗炎症薬を注射する場合もあります。
アトピー性角膜炎に対しては、角膜保護の点眼薬を使用します。重症例に対しては抗生物質の点眼薬、および眼軟膏を使用します。巨大乳頭が原因で角膜潰瘍を生じている場合は、巨大乳頭を消退させないことには角膜が治りませんので、早急に巨大乳頭の治療を行います。
アトピー素因があると、もともと粘膜が弱くなっているので、なかなか治りにくく(慢性化)、重症化することもしばしばあります。一度治っても繰り返すことが多いので、根気よく治療を続けることが大切です。
アトピー性角結膜炎が子供の頃からある場合は、日常的に眼をかいたり、叩いたり、こすったりすることがクセになっていることが多く、眼に衝撃が加わり外傷的な要因で白内障や網膜裂孔を生じたりしますので、そういう意味でも結膜炎の治療が重要になります。
(監修 京橋クリニック院長 佐々原 学)