上記の3点に関しては、こちらのページを御覧ください。
本ページでは、小児の近視進行を予防するための、具体的な医学的介入治療の一つとして有力な治療法である、「低濃度アトロピン点眼治療」について御説明してまいります。
低濃度アトロピン点眼治療には、アトロピン硫酸塩点眼液を使用します。アトロピンは普段の臨床では1%の濃度で使用されており、この方法では、散瞳による羞明(まぶしさ)、調節麻痺による近見障害(近くがピンボケで見えない)、眼のアレルギーを起こすなどの副作用が強く、長期間継続して使用するのは困難であります。
しかしながら、2012年に近視が社会問題になっているシンガポールの国立眼科センター (Singapore National Eye Center) から、低濃度のアトロピン(0.01%)でも1%と同様の強力な予防効果が得られた、との報告がされました(参考文献1)。
これはOphthalmology誌という眼科の臨床研究では世界最高峰の雑誌に掲載された画期的な論文です。内容を詳しく御説明致します。
この報告では対象が5群に分かれています。グラフの縦軸は近視の強さを表しており、マイナスが大きいほど、近視が強いという意味です。プラセボ群(偽薬による対照群)が179名でグラフの△のラインです。2年間の経過で、平均-1.20D近視が進行しています。
対してAと書かれたラインがアトロピンを点眼した群で、濃度によって1.0%、0.5%、0.1%、そして0.01%と4群に分かれています。それぞれ、167名、139名、141名、75名の子供さんが2年間治療を継続した結果を示しています。
1.0%アトロピン点眼群(▲のライン)では、ほとんど近視が進行していないという恐るべき効果が出ていることがわかります。0.01%アトロピン点眼群(○のライン)では-0.49Dの進行ということで、プラセボ群に比べますと、約60%の抑制効果が得られています。これでも素晴らしい効果で、現存する近視進行予防の治療方法の中では突出して高い効果です。
さらに0.01%アトロピンは低濃度である分、副作用も軽微であり、まぶしさや近見障害を訴えることはなく、軽度の遠方視力低下(全症例の13%)があるくらいでした。
その後2015年になって我が国でも、低濃度アトロピン点眼の副作用は軽微で実生活に影響を与える程度ではなく、継続使用が可能との報告がなされています(参考文献2)。
参考文献1: Chia A et al. Atropine for the treatment of childhood myopia; safety and efficacy of 0.5%, 0.1%, and 0.01% doses (Atropine for the Treatment of Myopia 2). Ophthalmology 119: 347-354. 2012.
参考文献2: 西山他. 低濃度アトロピン点眼の副作用について. 日眼会誌 119: 812-816, 2015.
当院では学童期の子供さん(6歳から12歳くらいまで)を対象に、2016年3月より低濃度アトロピンの点眼治療を開始しております。(12歳を過ぎた方でも、御相談に乗ります)
開始当初から0.01%に加え、0.05%の2段階の濃度を症例に応じて使い分けて治療しております。全症例で眼軸長を必ず測定し、その都度、眼軸長の延長速度(mm/year)を算出し、現時点での進行のスピードを把握します。また、過去のデータや近視進行チェックの結果とも照らし合わせて、お子様にとって最適の治療を随時選択しております。御両親には近視予防治療の結果について、データをお見せしながら詳しく説明しており、御好評をいただいております。
本治療は、保険診療の枠外となるため、自由診療の扱いとなります。
初診料
3,000円(税込)
再診料
1,500円(税込)
お薬代 低濃度アトロピン点眼
1本 2,200円(税込)
点眼薬は1日1回寝る前に点眼してください。
寝る前以外に点眼しないでください。副作用が出る可能性があります。
1本の使用期限は1ヶ月です。1ヶ月過ぎたら余っても捨ててください。
使う時以外は冷蔵庫で保存してください。
当院では、近視予防の医学的介入治療として、低濃度アトロピン点眼治療の他に、「焦点深度拡張型コンタクトレンズ」や「オルソケラトロジー」も取り扱っております。これらの治療を組み合わせることにより、より強力な近視予防効果が得られます。どの治療を行うのが良いのか、可能なのか、に関しては、それぞれのお子様毎に最適が異なりますので、担当医に御相談ください。