よくある目の病気
第96回は、色覚異常 (しきかく いじょう) です。
色覚とは、可視光線の波長の差を網膜の錐体細胞が色の違いとして捉える機能のことです。
ヒトの目が色として認識できる範囲の電磁波の波長は、約400~800nmとされています。この範囲の電磁波を可視光線 (visible light) といいます。可視光線より長い波長を持つ電磁波には赤外線やマイクロ波などがあります。反対に可視光線より短い波長を持つ電磁波には、紫外線やX線などがあります。
※「視能学」より引用
この波長の違いを感じ取る細胞が網膜の錐体細胞 (cone cell) です。
ほとんどのヒトの錐体細胞には、
長波長感受性錐体 (L-錐体、Long-wavelength-sensitive cone、赤錐体)
中波長感受性錐体 (M-錐体、Middle-wavelength-sensitive cone、緑錐体)
短波長感受性錐体 (S-錐体、Short-wavelength-sensitive cone、青錐体)
と3種類の細胞があります。これらの錐体がどの程度反応するかによって、様々な色の識別が行われます。色情報を伝えるために3つの独立したチャンネルをもつという意味で、ほとんどのヒトは3色型色覚と呼ばれます。多くの哺乳類は2色型色覚であり、魚類、両生類、爬虫類、鳥類は4色型色覚を持つと言われます。
色の違いを識別する錐体細胞に対して、光の強弱を識別する細胞として杆体細胞 (rod cell) があります。錐体細胞が担当する色覚に対して、杆体細胞が担当する機能を表す言葉として光覚という言葉を使う場合もあります。
錐体細胞がある程度の明るさがあるところでしか働かないのに比較して、杆体細胞は光に対する感度が高く、弱い光も捉えることができます。ヒトでは、錐体細胞は網膜中心窩周囲(10°以内)に集中して存在し、視力や色覚を担当しています。反対に杆体細胞は網膜中心窩外から周辺部にかけて存在し、視野や暗い場所での見え方を担当しています。
色覚異常には、先天性と後天性があります。
先天性色覚異常は両眼性です。症状が変化することがなく、生来の感覚なので自覚に乏しいことが特徴です。よって、学校での検査や親等からの指摘で初めて気付くことも多いです。
後天性色覚異常は、原因により両眼性または片眼性となります。正常色覚の記憶がある為、色覚異常を自覚する場合も多いです。
色覚に用いられている用語は、2005年に大幅に変更されましたので、今回は新旧の両方を紹介します。
先天色覚異常は、異常3色覚、2色覚、1色覚に分類されます。
後天色覚異常は、後天赤緑色覚異常、後天青黄色覚異常、後天1色覚に分類されます。
長波長感受性錐体(L-錐体)の異常を1型色覚
中波長感受性錐体(M-錐体)の異常を2型色覚
短波長感受性錐体(S-錐体)の異常を3型色覚
といいます。
1型色覚と2型色覚を合わせて赤緑色覚異常といい、先天色覚異常の大部分を占めています。日本人の頻度は男性が約5%、女性が約0.2%です。
異常3色覚のうち、1型3色覚は長波長感受性錐体(L-錐体)の感受性低下、2型3色覚は中波長感受性錐体(M-錐体)の感受性低下が特徴です。
感受性低下の程度は、正常に限りなく近いものから2色覚と区別のつき難いものまで様々です。
2色覚のうち、1型2色覚は長波長感受性錐体(L-錐体)の機能欠如、2型2色覚は中波長感受性錐体(M-錐体)の機能欠如が特徴です。
異常3色覚の3型3色覚、2色覚の3型2色覚は非常に稀なタイプになり、上記2つに比べ不明な点も多いといわれています。
1色覚の大部分は、杆体1色覚といわれており、これは錐体細胞が3種類とも機能不全を起こしており、杆体細胞のみ機能している状態です。視界に映るものは全て灰色に見えているといわれています。矯正視力は0.1以下、眼振や羞明(まぶしさ)などの症状があります。
錐体1色覚は、杆体1色覚よりさらに頻度が低くきわめてまれです(杆体1色覚で頻度が約0.003%)。
色覚異常のまとめを表に示します。
【症状】
先天色覚異常の主な症状としては、色の誤認です。
ここでは、先天色覚異常の大部分を占める赤緑色覚異常の誤認しやすい色を取り上げます。誤認しやすい色として、下記の色などがあります。
※日本眼科学会HPより引用
後天色覚異常では片眼性の色誤認に加え、原因となる疾患により様々な症状が付随します。
【原因】
先天色覚異常は、遺伝子の異常により発現することが分かっています。しかし、遺伝形式は色覚異常の種類によって異なります。
1型色覚と2型色覚
性染色体という男女を決定する染色体のうち、X染色体が原因となります(X染色体劣性遺伝)。
※日本眼科医会HPより引用
日本人の場合、1型と2型を合わせて男性の約5%、女性では0.2%とされています。
男性の確率が高いのには理由があります。性を決める染色体にはX染色体とY染色体の2種類あります。男性がXとY、女性がXとXです。
女性の場合は、異常のX染色体が2本揃わないと発現しません。しかし、男性の場合はX染色体が1本しかありませんので、そのX染色体に異常があれば色覚異常が発現します。
女性の場合、1本は正常なX染色体、片方は異常なX染色体を持つ方は、保因者といわれます(保因者は約10%いるといわれています)。この場合、その人自身には基本的には色覚異常は発現しませんが、その息子は50%の確率で色覚異常を発現する可能性があり、その娘は50%の確率で保因者となる可能性があります。
3型色覚、杆体1色覚、錐体1色覚
非常にまれな遺伝子異常となります。
後天色覚異常は、先天色覚異常を除く全ての色覚異常をさします。
原因としては、網膜疾患、中枢性疾患、薬物性など様々なものがあります。
【治療】
先天色覚異常には、現在のところ明確な治療方法はありません。
後天色覚異常には原因となる疾患があるので、原因疾患を治療していくことになります。
もし、色覚異常の疑いがあればまずは診断をしっかりと受けることが大切です。自分がどの色と色を間違えやすいのかが分かるとそれに対して対策を立てやすくなります。
クレヨンや色鉛筆などの間違えやすい色に目印をつけたり、印を付けられないもの(信号機)などは光る場所で覚えるといった具合です。
2003年以降、小学校での健康診断に義務づけられていた色覚検査は廃止されており、任意の検査となっています。気になる場合は、眼科を受診し色覚検査を受けるのが良いでしょう。
現在では進学時、就職時に色覚異常について問われることは少なくなっています。
しかし、例えば自衛隊、警察関係、消防関係、鉄道関係、船舶、航空、調理師専門学校など、ごく一部の学校に進学する際には、入学時に制限されることがあります。
就職が進学から始まっている場合もあるため、よく先を見据えておく必要があります。
色覚異常者にとって職業適性を考えた場合、異常の程度が軽くても適さない職業としては、①色彩感覚を要求される仕事(画家、染色業、塗装業、繊維業、色材料業、建築家、デザイナーなど) ②交通・運輸関係の仕事(信号灯を見誤る危険性)、があります。
また、異常の程度が軽い場合は良いが、強度の異常者には不適とされる職業として、③医療関係の一部(色に関する判断の誤りで誤診する)、④小学校・幼稚園の先生(色彩や色に関する知識を教える場面あり)、などがあります。
これらの不適職業の考え方はあくまでも一般論としてです。それぞれの職業でも実際の仕事の中身はさまざまですし、自身の色覚異常をよく理解して努力で補うことも可能かもしれません。しかしながら、人命に関わる仕事・作業に就く場合には、とりわけ注意が必要でしょう。
最後に、近年、色覚異常の方のためのバリアフリーとしてカラーユニバーサルデザインが提唱されています。これは色覚異常者に配慮された配色で、高齢者や正常者にも優しく見やすいデザインとされています。
(監修 京橋クリニック院長 佐々原学)