よくある眼の病気
第95回 老視(ろうし)
今回は調節異常(調節障害)である老視についてとりあげます。
老視とは、いわゆる老眼(ろうがん)の事で、加齢により誰にでも生じる生理現象の一つです。
一言で説明しますと、「加齢による調節力の低下」ということになります。
調節 (accommodation) とは、近くの視標に焦点を合わせるために屈折力を増強させることを言います。この能力を行っている組織は水晶体です。水晶体は弾性がある非常に特殊な組織で、厚みを膨らませたり、逆に薄くしたりすることが可能で、屈折力を変化させることができます。
※参天製薬HPより引用
水晶体の厚みが厚くなると、その分屈折力が大きくなります(近視よりになる)。反対に水晶体の厚みが薄くなると、その分屈折力が小さくなります(遠視よりになる)。
調節は水晶体の辺縁にある毛様体という組織によってコントロールされます。
毛様体には毛様体筋があり、ここの筋肉が収縮すると毛様体と水晶体をつないでいる毛様小帯(チン小帯)のテンションがゆるみ、水晶体が弾性によって厚くなります。反対に毛様体筋が弛緩すると、毛様小帯に再びテンションが形成され、水晶体が引っぱられて薄くなります。
このコントロールは自律神経によって制御されており、遠くを見たり近くを見たりする際に起こる網膜への焦点のズレを、この筋肉をコントロールすることによって補正しています。
この調節がなんらかの原因で阻害される事を調節異常(調節障害)と呼びます。
今回とりあげる老視の他に、調節痙攣や調節麻痺など様々な病気があります。
老視の状態は加齢により水晶体の弾性が低下し、充分に調節する事ができず、近方の視標に焦点を合わせることができない状態ということになります。
※参天製薬HPより引用
上図のように加齢に伴ってどんどん調節力は低下していきます。これが老視(老眼)です。
【問題点】
だいたいの方が40歳頃から、新聞など手元の細かい文字が読みづらい、以前よりも眼から離さないと見えにくい、ピントを合わせるのに時間がかかるなどを自覚します。見えにくいのを我慢していると、眼が疲れる、眼の奥が痛い、こめかみが痛いなど眼精疲労の症状が出てくる場合があります。
遠視の方は焦点が網膜より後ろにあるため、手元だけでなく、遠くのものを見る時も毛様体筋を緊張させ調節して網膜にピントを合わせています。よって老視で調節力が落ちると、遠方よりもさらに調節力を必要とする近方がまず見えづらくなり、その後さらに遠方も見えづらくなります。遠視の程度にもよりますが、ある程度の遠視がある方は、遠くも近くも見えづらくなります。
近視の方は焦点が元々網膜より手前にあるので、近方を見る場合には眼鏡やコンタクトレンズをはずして裸眼で見ると見えやすくなる場合があります。老視を自覚しにくい場合があります。
※参天製薬HPより引用
【治療】
基本は眼鏡やコンタクトレンズの度数を調整することによって解決します。
調節力の低下の度合いは個人差が大きく、また同じ人でも年齢によって大きく変化します。
さらにもともとの屈折状態が、遠視なのか、近視なのか、近視でも軽度近視なのか中等度以上の近視なのかによっても対応が変わってきます。
さまざまな条件が関わってきますので、眼科で今のご自分の状態についてしっかり説明を受けるのが良いでしょう。
軽度近視の場合、眼鏡をはずして裸眼で見ると手元は見えやすくなります。
中等度以上の近視がある方は、お使いの遠方用眼鏡の度数を落としてゆるめの眼鏡を使用したり、手元用の眼鏡(老眼鏡)を使用したりして、見たい物の距離によって眼鏡の使いわけをします。
もしくは遠近両用の眼鏡(上側に遠方を見るための度数、下方に手元を見るための度数が入った眼鏡)を使用し手元の見え方を補います。
近視や遠視でコンタクトレンズをお使いの方は、遠方に度数を合わせたコンタクトレンズをつけた上から老眼鏡を使用します。または遠方用コンタクトレンズの度数を近方にピントがあうようにゆるめに調整します。
遠近両用のコンタクトレンズもありますが、1枚の小さなレンズの中に遠方と近方を見る度数が入っているので、単焦点のコンタクトレンズに比べると、見え方の質が落ちる場合があります。
(監修 京橋クリニック院長 佐々原学)