よくある目の病気
第81回目は、未熟児網膜症 (みじゅくじ もうまくしょう Retinopathy of Prematurity; ROP) です。
赤ちゃんの網膜の血管はお母さんのお腹にいる間、視神経周囲から網膜周辺部へと伸びて成長していきます。そして在胎34~36週頃に完成します。
ところが、予定日より早く産まれてしまった場合(未熟児)は、網膜の血管は途中までしか伸びていません。血管が枝分かれしたり、眼の中心へ向けて立ち上がったりと、異常な血管発育をすることがあります。これが未熟児網膜症を引き起こします。
※「目でみる眼疾患」より転載
未熟児網膜症は、在胎週数・出生体重が少ないほど、網膜血管の発達が未熟なため発症率が高く、重症になりやすい傾向があります。近年は周産期医療の進歩に伴う生存率の向上によって、体重が極端に少ない児が生存できるようになりました。その一方で重症の未熟児網膜症が増えてきており、現在は小児の失明原因の第1位となっています。
【症状】
未熟児網膜症は軽症から重症までありますが、自然に治った場合は視力への影響はありません。ただし、予定より早く産まれた赤ちゃんは近視や乱視といった屈折異常のためにピントが合いにくかったり、視線が合わない斜視という状態を合併することもあります。さらに脳の合併症を持っていることもあるため、それによって視力の発達が妨げられることもあります。定期的な眼科検診が必要です。
治療が必要になったほどの重症になった場合は、その程度によって視力がどこまで伸びるかが決まります。モノを見る中心である黄斑が障害されなければ、日常生活や学習に困らないくらいの視力にはなりますが、近視になることが多いので、幼少期から眼鏡が必要になることがあります。網膜剥離を起こしたり、黄斑に障害が及んだ場合には、高度の視力障害をきたします。眼科への定期受診が必須になります。
【分類】
未熟児網膜症は、徐々に進行するタイプ(Ⅰ型)と急速に進行する劇症タイプ(Ⅱ型)に大きく分けられています。
Ⅰ型は進行の程度によってさらに5段階に分類されます。
Ⅰ型1期 網膜新生血管期
周辺ことに耳側周辺部に発育が完成していない網膜血管先端部の分岐過多、異常な怒張、蛇行、走行異常などが出現し、それより周辺部には明らかな無血管領域が存在します。
後極部には変化はありません。
Ⅰ型2期 境界線形成期
周辺ことに耳側周辺部に血管新生領域と、それより周辺の無血管領域の境界部に境界線が明瞭に認められます。
後極部には血管の蛇行怒張を認める場合があります。
※「目でみる眼疾患」より転載
Ⅰ型3期 硝子体内滲出と増殖期
硝子体内への滲出と血管およびその支持組織の増殖が検眼鏡的に認められる時期になります。
後極部にも血管の蛇行怒張を認める場合があります。
※「目でみる眼疾患」より転載
Ⅰ型4期 部分的網膜剝離期
3期の所見に加え、部分的網膜剥離を認める時期になります。
Ⅰ型5期 全網膜剝離期
網膜が全域にわたり完全に剝離する時期になります。
Ⅱ型は、自然治癒傾向の少ない予後不良のタイプです。
主として極小低出生体重児の未熟性の強い眼に発症し、赤道部より後極側の領域で、全周にわたり未発達の血管先端領域に走行異常、出血などがみられ、それより周辺は広い無血管領域が存在します。網膜血管は血管領域全域にわたり著明な蛇行怒張を示し、進行とともに網膜血管の蛇行怒張はさらに著明となり、出血、滲出性変化が強く起こり、Ⅰ型のような緩徐な段階的経過をとることなく、急速に牽引性網膜剝離へと進行します。
【原因】
かつて未熟児網膜症は、保育器内で高濃度の酸素を投与した未熟児に重症例が多いということが判明し、現在では保育器内にいるときの酸素分圧を測定し調節するようになっており、患者数は激減しました。しかしながら完全になくなるまでは至っておりません。
網膜血管が周辺部まで成長していない間に、高濃度の酸素が投与されてしまうと、血管は網膜の酸素が足りていると判断し成長が止まってしまいます。この後、保育器の外に出ると周辺部の網膜の酸素が急激に不足し、今度は急激な血管新生が起こります。このことが未熟児網膜症の発症につながると考えられています。酸素の供給不足と異常血管の新生の関係は、糖尿病網膜症における異常血管の新生のメカニズムに通じるところがあります。
【治療】
未熟児網膜症の重症化を防ぐための治療は、第1選択としてレーザーを用いた網膜光凝固術になります。これは我が国の永田博士が世界に先駆けて行った治療法で、現在は標準治療として確立しています。血管が伸びていない無血管領域に対して網膜光凝固術を行い、血流のない網膜を人為的に間引くことで、増殖反応を抑えて重症化を防ぎます(血管新生因子の放出を抑制)。
網膜剝離などを生じて重症化している場合は、専門病院にて硝子体手術を行います。
また近年では、保険外適応ですが、抗血管新生因子薬の硝子体内投与も行われてきています。
(監修 京橋クリニック院長 佐々原学)