よくある目の病気
第75回は中心性漿液性網脈絡膜症 (ちゅうしんせい しょうえきせい もうみゃくらくまくしょう)です。とても長い名前で、漢字ばかり並んでいるので難しく感じると思います。
この病気はいくつか呼び方があり、過去に疾患の名前が変わってきましたが、現在はこの呼び方で落ち着いています。簡単に中心性網膜症とも呼びます。
まず「中心性」とは、網膜の中心部で起こる病気という意味です。
網膜の中心部には黄斑があり、ここが障害されると視力が低下したり、視野の真ん中が暗く見えたり(中心暗点)、物がゆがんで見えたり(変視症)します。
次に「漿液性」ですが、この病気では「漿液性網膜剥離」が生じます。
下の図に示すように、中心性漿液性網脈絡膜症が発症すると、網膜の下側(正確に言いますと、神経網膜と網膜色素上皮の間)に網膜下液がたまります。
この網膜下液は、この病気では網膜の外側にある脈絡膜の血管から漏れ出した液と考えられています。この場合の漿液とは、血管内の血液成分のうち、血球成分を除いた液体成分のことを指します。つまり言い換えると出血(=赤血球の漏出)は起こっていないということです。
※「目で見る眼疾患」より抜粋
「網脈絡膜症」とは、現在では網膜と脈絡膜双方の異常が合わさって生じる病気と考えられており、そういう意味で「網膜症」と「脈絡膜症」を合体させて、「網脈絡膜症」と呼ばれています。
網膜と脈絡膜は網膜色素上皮によって接していますが、
①脈絡膜の血管からの漏れが大きくなる(透過性亢進と呼びます)
②網膜色素上皮が傷む
以上の2つのことが合わさって、この病気が発症すると考えられています。
以上を簡潔にまとめますと、中心性漿液性網脈絡膜症とは、
「網膜と脈絡膜の境目に異常が起こり、網膜の中心部に漿液性の網膜剥離が生じる病気」
とまとめられます。
【症例】
45歳男性。2日前から左眼だけで見ると物が小さく見える。視野の中心が暗く見える。
左眼は4年前にも中心性漿液性網脈絡膜症を発症している。
眼底検査では、黄斑部から耳側(向かって右側)にかけて、漿液性の網膜剥離を生じていた。
この時点で中心性漿液性網脈絡膜症の再発が考えられた。
光干渉断層計(OCT)画像。
中心窩を含む領域に網膜下液がたまっていることがわかる。
左眼の自発蛍光眼底写真。
中心窩の上耳側(向かって右上側)に、蛍光強度の増強を認める。これは網膜色素上皮の障害を示している。
フルオレセイン蛍光眼底造影写真。
中心窩からやや上方に、蛍光色素の漏出点が確認された。
蛍光色素の漏出点に対してレーザー治療を行い、治療後1週のOCT画像。
網膜下液が著明に減少している。
【症状】
視力低下
視野の中心部が黒っぽく見える、暗く見える(中心暗点)
物がゆがんで見える(変視症)
物が小さく見える(小視症)、反対に大きく見える(大視症)
【原因】
中年の男性に多く見られますが、原因ははっきりわかりません。
精神的ストレス、妊娠、ステロイドの内服や塗り薬の使用、などが発症に関連していると考えられています。
【治療】
中心性漿液性網脈絡膜症は一般的に自然治癒傾向が高い病気です。内服薬等でしばらく経過をみているうちに、漿液性網膜剥離が自然吸収されてくる場合が多いです。
ただ、なかなか改善傾向が見られない場合や、早期の治癒を希望する場合は、レーザーによる網膜光凝固術を行う場合があります。
全ての症例にレーザー治療をすることが可能なわけではありません。
蛍光眼底造影検査を行って、脈絡膜から網膜への漏れ出し口(漏出点と呼びます)の位置がが同定され、かつ、漏出点が中心窩(網膜の最も中心の部分)から離れていることが条件となります。中心窩と漏出点が近い場合は、レーザー治療を行うことにより、かえって視力障害を引き起こしてしまうのでレーザー治療を行うことはできません。
漿液性網膜剥離は一旦は吸収されても、長年の経過で再発する場合もあり、再発を繰り返す症例では網膜にダメージが蓄積され視力予後が不良となる場合もあります。
(監修 京橋クリニック院長 佐々原学)