よくある目の病気
第72回目は、裂孔原性網膜剝離 (れっこうげんせい もうまくはくり) ・ 網膜格子状変性 (もうまく こうしじょう へんせい)です。
網膜剝離は皆さん誰もが一度は耳にしたことのある病気だと思います。
網膜剥離の定義は、神経網膜と網膜色素上皮との接着がはずれて、神経網膜と網膜色素上皮との間に液状成分が入り込み、溜まってしまった状態と言えます。
網膜剥離の原因としては大きく分けて3つあります。
裂孔原性 (れっこうげんせい)
漿液性 (しょうえきせい)
牽引性 (けんいんせい)
今回はこの3つの原因のうち、裂孔原性網膜剥離についてお話したいと思います。
裂孔原性網膜剝離は、神経網膜に裂け目、もしくは孔が生じ(裂孔、円孔)、そこから硝子体の液体成分が網膜下に侵入して、神経網膜が剥離してしまう、という病気です。
(日本眼科学会HPより転載)
硝子体液の成分は神経網膜に対して障害性であり、剥離し続けている間、神経網膜はダメージを受けてしまいます。できるかぎり早急に剥離した部分の網膜を元の状態に戻す(復位させる)ことが大切です。
剥離した時間により、視野障害などの後遺症が残ります。黄斑部が剥離すると視力障害や変視症(ものがゆがんでみえる)などの後遺症が残ります。黄斑部が長時間剥離してしまうと、視力が失われて失明してしまうこともあります。
裂孔原性網膜剥離を起こしてしまう人のうち、網膜格子状変性が原因となっている場合は多いです。網膜格子状変性とは、網膜の周辺部に存在する変性の一種で、円孔や裂孔が生じやすくなっている部分であります。
変性巣に走る網膜血管が白線化し、格子状に見えることから、網膜格子状変性の名前が付いている。変性巣の左端は萎縮し、円孔を生じている(萎縮性円孔)。
(眼科診療プラクティスより転載)
【症例】
18歳男性。1週間前から右眼で見ると、ものがゆがんでみえるのに気づいた。
矯正視力は0.5と低下していた。
眼底検査で中心窩を含む網膜剥離を認めた。
網膜周辺部に網膜裂孔を認め、裂孔原性網膜剥離と診断された。
同じ症例の光干渉断層計(OCT)画像。黄斑部の神経網膜が剥離しているのがわかる。
入院後手術を施行し、現在は矯正視力1.2に回復している。
51歳女性。網膜周辺部に網膜裂孔とそれに伴う網膜剥離を認める。裂孔原性網膜剥離である。
61歳男性。網膜周辺部に網膜裂孔とそれに伴う網膜剥離を認める。裂孔原性網膜剥離である。
31歳男性。縦に2箇所網膜裂孔が並んでいる。周囲は網膜剥離を生じており、裂孔原性網膜剥離である。
【症状】
裂孔原性網膜剝離の症状は、以下のようになります。
初期: 飛蚊症=黒い点、ゴミ、糸くずのような、動くものが見えることが多い。
進行期: 網膜剥離の範囲に一致して視野欠損が起こる。
さらに進行し剥離が中心窩まで広がると、視力障害が生じる。
網膜格子状変性があるだけでは、自覚症状は出ません。
【原因】
網膜格子状変性が原因となって、裂孔原性網膜剥離が生じるメカニズムをご説明致します。
一つ目のメカニズムは、網膜格子状変性の部分の変性した網膜が薄くなって孔が開いてしまう場合です。これを萎縮性円孔と呼びます。萎縮性円孔から硝子体液が徐々に網膜下に入り込み、徐々に網膜が剥がれていくことになります。
裂孔原性網膜剥離の好発年齢は20歳代と50歳代の二峰性のピークを示しますが、20歳代の網膜剥離の原因として多いパターンが、この萎縮性円孔から網膜剥離を生じるパターンであります。網膜剥離の進行速度がゆっくりな場合が多く、自覚症状に乏しい場合があります。
もう一つのメカニズムは、網膜格子状変性の部分の網膜が大きく裂けて、網膜裂孔を形成してしまい、裂孔から硝子体液が網膜下に入り込み、網膜が剥離するというパターンです。これは50歳代に多く見られるパターンであります。
網膜格子状変性は硝子体線維と強く癒着していることが多く、硝子体が加齢とともに容積が縮んで、網膜からはずれてしまう(=後部硝子体剥離といいます)ときに、硝子体線維によって網膜格子状変性の部分が強く引っぱられ(硝子体網膜牽引)、網膜が大きく裂けてしまうことが起こります。
後部硝子体剥離が起こる際に、自覚として飛蚊症や光視症が出ます。よって、飛蚊症や光視症を自覚したときには、眼科へ受診して眼底検査を受けることが大切です。このパターンの網膜剥離は比較的急速に進行することが多いです。
裂孔原性網膜剥離を引き起こす原因は、網膜格子状変性の他にも、外傷、アトピー性皮膚炎、強度近視、手術時の医原性などいくつかあります。
網膜格子状変性は正常人の6~10%にみられると言われていますが、できる原因については不明です。
【治療】
裂孔原性網膜剥離は、進行性のものと非進行性のものに分けられます。
非進行性と判断された場合は、経過観察になることもあります。進行性と判断された場合は、最終的に視力障害、ひいては失明してしまいますので、それを防ぐために手術治療を行うことになります。
網膜剥離が軽度な場合は、外来での網膜光凝固術(レーザー治療)で治まる場合もありますが、レーザー治療では対処できないと判断された場合には、入院の上、手術を行うことになります。
手術方法には大きく分けて、強膜バックリング法と硝子体手術があります。
強膜バックリング法は、眼球の外側から網膜裂孔に相当する部分にあて物をあてて、さらに孔の周りに熱凝固や冷凍凝固を行って剥離した網膜を剥がれにくくし、必要があれば網膜の下に溜まった水を抜くというやり方です。
(日本眼科学会HPより転載)
硝子体手術は、眼球の壁に小さな穴を開け、そこから眼球内部に細い器具を挿入して、眼球の中から網膜剥離を治療するというやり方です。この方法では、剥がれた網膜を押さえるため、ほぼ前例で眼球の中に空気や特殊なガス、シリコーンオイルなどを注入して手術を終了します。手術後にうつぶせなどの体位制限が必要となります。
(日本眼科学会HPより転載)
網膜格子状変性を発見した場合は、経過観察が基本ですが、反対眼に網膜剥離を生じているような場合には、網膜剥離の予防として網膜光凝固術(レーザー治療)を行うことがあります。
(監修 京橋クリニック院長 佐々原学)