「よくある目の病気」
第69回 高血圧性眼底 動脈硬化性眼底
網膜の血管は、人間の身体で唯一直接観察する事ができる血管です。
高血圧や動脈硬化など、全身の疾患は網膜にも影響を及ぼしますが、眼底検査を行い網膜を詳しく観察すると、高血圧や動脈硬化による血管の変化を捉えることができます。
【症例】
38歳男性。もともと高血圧があったが、半年間内科を受診せず薬を飲んでいなかった。
3日前から急に視界の真ん中だけが白くかすんで見えるようになった。
昨日ひさしぶりに内科を受診したところ、収縮期血圧210mmHg、拡張期血圧130mmHgと重症の高血圧であった。
両眼の眼底に網膜出血、軟性白斑を認めた(高血圧性網膜症)。
矯正視力は右眼が0.4、左眼が0.7と低下していた。
OCT画像にて、両眼ともに黄斑部に漿液性の網膜剥離が生じていることが判明した。
【症状】
高血圧性眼底
軽度な場合は一般的に自覚症状はありません。
高血圧になると、網膜の動脈が細くなる狭細化、1本の動脈が太い血管と細い血管に分かれる口径不同がみられます。
動脈硬化性眼底
一般的に自覚症状はありません。
動脈硬化により網膜の血管の壁が厚くなると、血柱反射(血管を観察した時血液に光が反射して輝いて見える)が通常の血管に比べ、反射の幅が太くなる血柱反射亢進が見られます。
動脈硬化がさらに進行すると、血管が銅線のような色に見える銅線動脈、さらに血管が白く見える銀線動脈がみられます。
動脈と静脈の交差している所で、動脈が静脈を圧迫し、静脈が細く見える、血流をせき止め、うっ血させる動脈静脈交差現象もみられます。
網膜の血管異常がさらに進行すると、高血圧性網膜症、動脈硬化性網膜症と言って、網膜に出血や白斑、網膜浮腫、視神経の浮腫がみられ、視力低下を自覚する場合があります。網膜動脈閉塞、網膜静脈閉塞、硝子体出血などを併発すると、視力低下、霧視、視野障害が生じます。
【原因】
高血圧性眼底
高血圧は、遺伝的要因に加えて、生活習慣(塩分の取り過ぎ、肥満、運動不足、喫煙など)、加齢などが複雑に絡み合って起こると考えられる本態性高血圧(高血圧全体の90%以上)と、腎疾患やホルモン疾患など他の病気が原因でおこる二次性高血圧に分けられています。
高血圧の定義は収縮期血圧が140mmHg以上、または拡張期血圧が90mmHg以上が保たれた状態とされています。重症の高血圧は収縮期血圧180mmHg以上、または拡張期血圧110mmHg以上とされており、血圧がかなり高い人は眼底に異常が出る場合もありますので、積極的に眼底検査を受けましょう。
動脈硬化性眼底
高血圧や糖尿病、高脂血症、喫煙、運動不足などが危険因子となり、動脈の内腔を作っている血管内皮細胞が障害され、内膜が肥厚することで内腔が狭くなります(動脈硬化)。さらに内腔が狭窄していくと血栓が生じ、血管内腔が完全に詰まってしまうことが起きてしまいます。これは動脈閉塞(梗塞)になり、重篤な視力障害を引き起こします。
また、硬化した動脈は、動脈と静脈の交差部で静脈を圧迫してしまうため、今度は静脈の内腔が狭窄してしまい、最後には血栓を生じて完全に閉塞してしまいます。これが静脈閉塞となります。網膜静脈閉塞も重篤な視力障害を引き起こします。
【治療】
定期的に眼底検査を受けることが重要です。
高血圧も動脈硬化も日頃の生活習慣が重要とされており、内科的な治療が眼の治療になります。内科と連携し、薬物治療、運動療法、食事療法、飲酒摂取量の管理、喫煙に対する指導などを行います。
進行がみられ、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症などを併発する場合は、蛍光眼底造影検査やレーザー治療が必要になる場合がありますので、自覚症状がなくても、定期的に検査をうけましょう。
(監修 京橋クリニック院長 佐々原学)